Ubuntu LinuxからWindowsに戻った

ThinkPad X60における1か月あまりのUbuntu生活はなかなか面白かった。がしかし、やはりいくつかの致命的な欠点に出会って、再びWindowsインストール済みの2.5inch S-ATA HDDと交換することにした。
日本語変換がまるでダメ。Anthyは良くできている。が、しょせん辞書がCannaベースでは限度がある。連文節変換をすると「入れ立てのお茶」程度で競っていたころの日本語変換プログラムよりはるかにひどい。iPod touchの辞書よりはマシという程度にすぎない。これで日本語の文章を書き綴るのは苦行である。
やはりATOKを入れねばダメかとATOK X3 for Linuxを導入したものの、ログイン時に[セッション]に登録しても起動したりしなかったり、KDE4アプリケーションでは動作が不安定だったり、いわゆるIME ON/OFFがハードコーディングで固定されており、まったく持って思い通りのカスタマイズができない。一応version 20(ATOK 2007)相当となってはいるが、微妙にかゆいところに手が届かない機能削減がなされており、逆にストレスがたまる結果となってしまった。
バッテリが致命的に持たない。元々ThinkPad X60はバッテリの持つ機種ではない。私の使用スタイルでは、Windows XPで使っていても標準バッテリで2時間強程度である。ところがUbuntu Linuxでは1時間半を切ってしまう。この差は微妙に効く。サスペンドはまったく使う気になれず――そもそもサスペンドするより再起動したほうが早い場合が多すぎる。不安定すぎて――、Ubuntuで使っている間はバッテリ駆動させるたびに充電している感覚であった。
パームレストが異常に熱い。ThinkPad X60は右パームレストが異常に加熱する欠陥を持っている。使用用途と室温によっては耐えがたい温度まで上がる。これがUbuntu環境だと、普通に使っているだけで既に耐えられないほどに熱い。Compiz Fusionを有効にしているせいもあろうが、あまりに熱すぎる。これは電源管理の概念が未だデスクトップ用途に最適化されている故であり、仕方がないとも言えるが、こんなに熱いとハードウェアのほうが心配になってくる。Windowsに戻そうと決心した直接的な原因でもある。
不安定である。Linuxは安定しているなどという幻想を語る扇動家も最近は見なくなったが、たとえカーネルは安定していてもX Windowは別である。そもそも安定稼働するに枯れきった環境が必要で、Compiz Fusionなんかを使っていて安定動作するはずもないのだが、これを使わなければ、単なる「文字はきれいだけどUIのWidgetの作りがやたらと大仰で有効面積の狭いつまらないデスクトップ環境」になってしまう。でまあ使うわけだが、安定度をざっくり体感で表すとWindows 98くらいである。1日1回は再起動している感覚だ。一応X Windowだけを強制終了させるCtrl+Shift+Backspaceというどこかで見たようなキーバインドもあるのだが、無事ログイン画面に戻れるのは5回に1回程度だ。この成功率だとほとんどの場合、フリーズしたら電源ボタンを押して強制終了させていることになり、自分でやっていてなんだがハードウェア的にも精神衛生的にも嫌すぎる。
煽るだけなのも何なので、Ubuntu Linuxの良いと感じた点も書いておく。
画面が美しい。アンチエイリアスの効いた文字、3Dデスクトップ、フォントやアイコンデザインまで統一されたアプリケーションデザイン、いずれもWindows XPでは満足に得られないものだ。
アプリケーションのインストールが容易である。これはSynapticパッケージマネージャに登録されたものに限っての話だが、それにしてもまるで悩む必要がないのは非常に快適である。使ったことのない方は、リストにないものを入れるときには困るだろう、と思うだろうが、日本語圏で話題にあがるようなアプリケーションはほぼ間違いなくリストに入っているので困らない。実際1か月間でSynapticパッケージマネージャのリストを使わず、debファイルをgetして導入したものは例のアレくらいである。Windowsでは鬼門であるコーデックの導入も容易である。Windowsでアプリケーションが「足りないコーデックを自動検索します」と言い出した場合はまず間違いなく見つからないので自分で探す羽目になるが、Ubuntu Linuxにおいてはそういうことは一切なかった。ぱっと思いつくメジャーなフォーマットであればほぼ完璧だ。
ExplorerとFinderを折衷させたようなファイルマネージャ。拡張子に依存せず、勝手にアイコンをサムネイル表示してくれる。別ペイン上でのディレクトリツリー表示がある。アーカイブを開いたデフォルト動作が展開ではなくビューア。バックボタンで戻っても選択ファイルが維持されている。操作系はExplorer風で、外観はFinder風とでも言おうか。いずれも好みの問題ではあろうが、かなりしっくりくる。複数ファイルを選択してコピーしようとフォルダ上でホールドすると、なぜか数秒間待たされるのは不可解であるが、それを差し引いても非常に好印象である。
全体として、数年前の第1次Linuxブームの頃と比べると遙かに良くなっている。あの頃は何をするにでもすぐに行き止まりやら落とし穴やらがそこかしこにあって、技能なしではまるで身動きが取れない印象だったが、Ubuntu Linuxはそういった罠も早々出会うこともなく、いろいろと見て回ろうという意欲をかき立てられる。今回は都合でWindowsに回帰することになったが、いずれ専用機を組んでやろうかなという思いも片隅にはある。